
はじめに
2026年、Jリーグで新たに「U-21 Jリーグ」が始まりました。
Jリーグは、この大会を創設した目的について、次のように説明しています。
日本サッカーにおいて、18歳まではJユースや高校サッカーを通して継続的な出場機会が確保できている中、19歳以降(高校卒業以降)は大学サッカー等に進むか、プロリーグに進むかの限られた選択肢の中で適正なプレー環境を確保する難しさがあります。
プロ選手としての可能性を高めるのに重要な期間である19歳から21歳の選手に対して、「年間を通して90分フル出場できる機会」、「試合→休息→トレーニング→試合のサイクル」、「観られている状況での真剣勝負」といった適正なプレー環境を確保し、日本サッカー全体の可能性を最大化するために、今回「U-21 Jリーグ」の創設を決定しました。
出典:Jリーグ公式「U-21 Jリーグ」
https://www.jleague.jp/special/u-21/
つまりJリーグは、19歳から21歳を「プロ選手としての可能性を高めるために重要な期間」と位置づけています。
しかし、ここで一つ疑問が浮かびます。
なぜ21歳なのでしょうか。
単純に「若手に試合経験を与える」ことが目的なら、U-23でもよいはずです。
実際、JリーグにはU-23チームをJ3に参加させていた時期がありました。
それでも今回、Jリーグが新たに設定した年齢はU-21です。
そこには、単なる「若手育成」だけでは説明しきれない意味があるのではないでしょうか。
私はU-21 Jリーグを考えるうえで重要なのは、
「才能のある選手を育てること」だけではなく、「才能のある選手が、その才能を公式戦で証明すること」
なのではないかと考えています。
そして、その先には、
「育成」と「市場」をつなぐ役割
も見えてきます。
この記事では、Jリーグの公式見解を軸に、なぜ「21歳」という年齢が設定されたのかを考えていきます。
なお、Jリーグが明言している内容と、私自身の考察混ぜて紹介しています。
「才能がある」だけでは、プロ選手としての価値にならない
若い選手について語るとき、私たちはよく「才能」という言葉を使います。
「あの選手は才能がある」
「あの選手は将来伸びそうだ」
もちろん、若い選手を評価するうえで才能は重要です。
しかし、才能があることと、プロ選手として評価されることは同じではありません。
例えば、18歳の選手がクラブの練習で素晴らしいプレーをしていたとします。
監督やコーチからの評価も高い。
しかし、トップチームの公式戦にはほとんど出場していない。
この選手を、別のクラブはどのように評価すればよいでしょうか。
「練習ではすごいらしい」
だけでは、なかなか判断できません。
では、90分間の公式戦に何度も出場していたらどうでしょう。
相手から研究される。
プレッシャーのかかる場面で判断する。
失敗した後に修正する。
試合終盤、疲労した状態でもプレーする。
そうした経験を積み重ね、その中で結果を残している。
そうなれば、他クラブもその選手をより具体的に評価できます。
つまり、
「才能がある」ではなく、「才能を証明している」。
この違いは非常に大きいのではないでしょうか。
これは他クラブからの評価だけではありません。
自クラブでトップチームの出場機会を掴む上でも、
「練習で評価されている選手」
から、
「公式戦で結果を残している選手」
へ変わることには大きな意味があります。
だからこそ、若い選手にとって重要なのは、単に「試合に出られること」ではなく、
観客やスカウト、クラブ関係者などから「見られている」環境で、継続的に公式戦を戦うこと
ではないでしょうか。
そして、この点はJリーグ自身がU-21 Jリーグの目的として掲げる、
「観られている状況での真剣勝負」
という言葉とも重なります。
「若手に試合をさせる」なら、U-23でも良い?
ここで、最初の疑問に戻ります。
なぜU-21なのでしょうか。
Jリーグには、U-23の前例があります。
2016年から2020年まで、FC東京、ガンバ大阪、セレッソ大阪のU-23チームがJ3に参加していました。
当時のJリーグは、U-23チームのJ3参加について、以下の見解がありました。
23歳以下の選手の公式戦での出場機会を創出し、将来有望な選手の強化・育成に寄与することを目的とするものです
出典:Jリーグ公式 【Jリーグ】来季のJ3リーグにJ1・J2クラブの「U-23チーム」が参加
https://www.jleague.jp/news/article/3846/?navicode=j1
つまり、
「若手に公式戦の出場機会を与える」
という目的だけを考えれば、U-23でも成立します。
では、なぜ今回のU-21 Jリーグでは、21歳以下と銘打ったのでしょうか。
(※実際にはOA枠があり、全員が21歳以下というわけではないです)
ここから、Jリーグが考える「19~21歳」という年代の意味が重要になってきます。
Jリーグが「19~21歳」を重要視する理由
JリーグはU-21 Jリーグを「ポストユース(19~21歳)」を対象とした大会と位置づけています。
2025年の理事会後会見では、Jリーグ側から次のような説明がありました。
大学サッカーでは年間を通して高水準でプレーできる環境があります。一方Jリーグ視点で考えると、大学を卒業してからJリーグに加入すると23歳になります。Jリーグに貢献いただける年齢や、昨今増えている海外移籍においては21歳くらいまでのマーケットの価値が上昇している中、この4年間は少し時間がかかってしまっているというのがJリーグからの観点です。
出典:Jリーグ公式「2025年度 第5回Jリーグ理事会後会見発言録」
https://www.jleague.jp/news/article/31119/?navicode=j1
直接的に
「21歳がサッカー選手として絶対的な境界線である」
とJリーグが言っているわけではないですが
19~21歳という時期に十分な公式戦経験を積めないことが、日本サッカーにとって大きな機会損失になっている
という問題意識が見えてきます。
そして、
もう一つJリーグが明確に意識しているのが、
海外移籍市場
です。
海外移籍を考えると、「21歳」という数字が見えてくる
実際、日本代表選手の中には、若くして海外へ移籍し、その後代表の中心選手になった選手が少なくありません。
今回の北中米W杯日本代表メンバーについて、海外移籍時の年齢を整理すると、次のようになります。
| 選手 | 移籍時年齢 | 移籍元 | → | 移籍先 |
|---|---|---|---|---|
| 久保建英 | 18歳 | FC東京 | → | レアル・マドリード |
| 菅原由勢 | 18歳 | 名古屋グランパス | → | AZ |
| 堂安律 | 19歳 | ガンバ大阪 | → | フローニンゲン |
| 後藤啓介 | 18歳 | ジュビロ磐田 | → | アンデルレヒト |
| 中村敬斗 | 18歳 | ガンバ大阪 | → | FCトゥウェンテ |
| 冨安健洋 | 19歳 | アビスパ福岡 | → | シント=トロイデン |
| 塩貝健人 | 19歳 | 横浜F・マリノス/慶應義塾大学 | → | NEC |
| 鈴木彩艶 | 20歳 | 浦和レッズ | → | シント=トロイデン |
| 鎌田大地 | 20歳 | サガン鳥栖 | → | フランクフルト |
| 板倉滉 | 21歳 | 川崎フロンターレ | → | マンチェスター・シティ |
| 瀬古歩夢 | 21歳 | セレッソ大阪 | → | グラスホッパー |
| 前田大然 | 21歳 | 松本山雅FC | → | マリティモ |
| 鈴木唯人 | 21歳 | 清水エスパルス | → | ストラスブール |
| 伊藤洋輝 | 22歳 | ジュビロ磐田 | → | シュトゥットガルト |
| 田中碧 | 22歳 | 川崎フロンターレ | → | デュッセルドルフ |
| 鈴木淳之介 | 21歳 | 湘南ベルマーレ | → | FCコペンハーゲン |
| 町野修斗 | 23歳 | 湘南ベルマーレ | → | ホルシュタイン・キール |
| 佐野海舟 | 23歳 | 鹿島アントラーズ | → | マインツ |
| 上田綺世 | 23歳 | 鹿島アントラーズ | → | セルクル・ブルージュ |
| 長友佑都 | 23歳 | FC東京 | → | ACチェゼーナ |
| 渡辺剛 | 24歳 | FC東京 | → | KVコルトレイク |
| 伊東純也 | 25歳 | 柏レイソル | → | ヘンク |
| 遠藤航 | 25歳 | 浦和レッズ | → | シント=トロイデン |
| 小川航基 | 25歳 | 横浜FC | → | NEC |
| 谷口彰悟 | 31歳 | 川崎フロンターレ | → | アル・ラーヤン |
この25人を年齢で分けると、
| 海外移籍時の年齢 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 21歳以下 | 14人 | 56% |
| 22~23歳 | 6人 | 24% |
| 24歳以上 | 5人 | 20% |
| 合計 | 25人 | 100% |
となります。
もちろん、この数字だけで、
「21歳以下で海外に移籍したから、日本代表になれた」
とは言えません。
むしろ、
「若くして海外へ移籍できるほどの実力を持った選手だから、日本代表になった」
という逆の因果関係も十分に考えられます。
したがって、このデータから「21歳以下で海外へ行けば成功する」と結論づけることはできません。
しかし、少なくとも
日本代表の中心となった選手の中には、21歳以下で海外へ移籍した選手がかなり多い
という事実は確認できます。
そして何より重要なのは、Jリーグ自身が「21歳くらいまでのマーケット価値」を海外移籍との関係で意識していることです。
21歳という年齢の理由が少しずつ見えてきましたが、
まだ疑問が残ります。
U-23だとしても、21歳は出られるじゃないか。
ここを考えるために、今度は日本の外に目を向けてみます。
UEFA EUROも、かつてはU-23だった
ヨーロッパでは、若手代表の大会としてUEFA U-21 EUROがあります。
現在は「U-21」が当たり前になっていますが、
実はこの大会も、最初からU-21だったわけではありません。
1976年にUEFAは大会の年齢制限をU-23からU-21へ引き下げることを決定しています。
なぜでしょうか。
UEFAは、その理由をかなり明確に説明しています。
by reducing the age limit to 21, it made the competition more accessible to players in the 18–21 age bracket, many of whom had previously seen their path blocked by 22- and 23-year-olds.
つまり、
22歳や23歳の選手によって、それまで大会への道を阻まれていた18~21歳の選手が、より参加しやすくするため
です。
これは先ほどの問いに対する一つの答えになります。
「U-23なら若手も出場できる」
という考え方に対して、UEFAは実際に、
「U-23にすると、22~23歳の選手が入ってくることで、18~21歳の選手の出場機会が減る」
という問題を経験していたからです。
つまり、
U-23とU-21の違いは、単なる2歳の違いではなく
「どの年代に、公式戦の席を用意するのか」という設計の違いになります。
Jリーグは、より大きなチャンスをU-21の選手に作れるようなリーグ設計をしたということになります。
「見られること」が重要になる
もう一つ見逃せないのが、U-21 Jリーグが有観客で開催され、配信も行われることです。
Jリーグは、U-21 Jリーグについて全試合を有観客で開催するとしています。
さらに、2026年8月からはDAZNでの配信に加えて、Jリーグ公式YouTubeチャンネルで毎節1試合の無料ライブ配信も決まりました。
これは単に「ファンが試合を見られる」というだけではありません。
選手にとっては、
自分のプレーを外部に見せる機会
になります。
スタジアムに足を運んだスカウト。
DAZNを見ているファン。
YouTubeで偶然試合を見つけた人。
そして、国内外のクラブ関係者。
こうした人たちの目に触れることで、選手の次のキャリアが生まれる可能性があります。
もちろん、配信をしたからといって海外移籍につながるわけではありません。
しかし、
「試合をする」だけではなく、「試合を見てもらえる」
ところまで設計されていることには、大きな意味があると思います。
まとめ なぜU-23ではなくU-21なのか?
ここまでの話をまとめます。
まず、Jリーグが明確に説明しているのは、
19~21歳はプロ選手としての可能性を高めるうえで重要な時期であり、この年代に十分なプレー環境を用意する必要がある
ということです。
そして、Jリーグは海外移籍市場について、
21歳くらいまでのマーケット価値が上昇している
という認識も示しています。
一方、過去のJリーグにはU-23チームのJ3参加という前例がありました。
つまり、
「若手に試合経験を与える」だけなら、U-23でもよかった。
しかし、U-23では22~23歳の選手が主戦力になります。
実際、UEFAのU-23からU-21への変更では、22~23歳の選手によって18~21歳の選手の道が阻まれていたことが、年齢引き下げの理由として説明されています。
こうした事例を踏まえると、U-21という設定には、
19~21歳という「ポストユース」の年代に、確実に公式戦の席を用意する
という意味があり
そして、その公式戦を通じて、
才能を育てる
↓
公式戦で経験を積む
↓
才能を証明する
↓
評価される
↓
次のキャリアへ進む
という流れを作る。
これが、U-21 Jリーグの一つの大きな役割なのではないかと私は考えます。
つまり、U-21 Jリーグは、
「才能のある若手を育てるリーグ」
から一歩進んで、
「才能のある若手が、自分の価値を証明するリーグ」
なのかもしれません。
そしてその先には、
日本サッカーの育成と、国内外の選手市場をつなぐ
という役割も見えてきます。
U-21という年齢設定が本当に正しかったのかは、まだ分かりません。
大会が始まったばかりです。
これからU-21 Jリーグからトップチームへ昇格する選手がどれだけ出てくるのか。
Jリーグの他クラブへ移籍する選手がどれだけ出てくるのか。
そして、海外へ羽ばたく選手がどれだけ出てくるのか。
その結果を見て初めて、
「なぜU-23ではなくU-21だったのか」
という問いに、本当の答えが出ると思います。
未来の日本代表選手は、もしかすると、このリーグから生まれるのかもしれません。
ぜひ一度、U-21 Jリーグの試合を見てみてください。
まだ名前の知られていない選手が、自分の価値を証明する瞬間を目撃できるかもしれません。





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